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尾名高 典子

筋肉の性質。脊髄反射編

更新日:2019年6月9日

筋肉はビビリーである 

どういう意味かと言えば、筋肉はいきなり伸ばされると反射的に縮んでしまう。 

痛みを感じたときも、勝手に縮んでしまう。 

別にそんなに焦って縮む必要がないときでも、今は縮まない方が良いだろうってときにも、ときどき過剰に反応して、本人の意志に反して縮まってしまうのである。

伸ばされたときの反応で一番わかりやすいのが膝蓋腱反射。 

足をだらんとした状態で膝のお皿の下を叩かれると、足がものを蹴るようにぴょんとしてしまうあれだ。 

この足の動きは正常な反応だが、脳に障害があると反射が激しくなり、腰椎ヘルニアなどで末梢神経に障害が起きるとその反応は弱くなる。

 

膝蓋腱反射の仕組みを解説すると、 

膝蓋腱は独立した腱というわけではなく、人体でも最大の筋肉(表面積で言えば、もっと大きいのもいるけど)大腿四頭筋の一部、一番下の端っこである。 

筋肉には、筋肉の伸び具合をチェックしている神経の受容器(脳や脊髄の出先機関で、脳や脊髄に筋肉の状態を知らせている)があって、そいつが筋肉の端っこ、腱の部分に集中して設置してある。 

そこの部分が叩かれることで凹むと、受容器は筋肉が引っ張られた、伸ばされたと言う信号を脊髄に送り、脊髄は緊急事態なので脳の判断を仰がず、独自の判断で大腿四頭筋を縮めるよう指示を出す。

大腿四頭筋が縮むと、足を蹴り出す動作になるわけだ。

 

中枢神経(脳や脊髄)の障害で腱反射は弱くなり、末梢神経(坐骨神経など)の障害で、反射は弱まる

脳はこの反応が過剰に出すぎないように抑制しているので、脳が壊れると腱反射は激しくなるのが一般的。

筋肉の端の方をちょこんと叩くだけで、どの筋肉もビクンと飛び跳ねるように収縮することさえある。 

逆に反射が弱くなるのは、脊髄からの指令を伝える神経線維が、脊髄と筋肉の間で踏んづけられたりして、その指令が上手く伝わらないときである。 

神経が踏んづけられる原因には、加齢により背骨が潰れて、脊髄から末梢神経が出るための通路が狭くなることや、神経の上を通っている筋肉が硬くなって神経を圧迫するものや、椎間板から中身がはみ出して神経の通り道を塞ぐ場合(ヘルニア)などがある。

(ちなみに、意識して構えすぎても反射は起きにくくなるので、本人には何か別のことをしてもらい、気持ちを他に向けさせてから、言わば不意打ちで検査をすることもある)

 

腱反射が起こるのは筋肉の断裂や関節の脱臼を防ぐため

どうしてこんな仕組みを神様が作ったのかと言えば、もしこの反射が起きず、筋肉が引っ張られたとき、そのまま伸びきってしまうようなことがあると、筋肉の断絶や、その筋肉が支えている部分の関節が脱臼を起こす可能性があるからだ。 

関節部分は主に、関節包(関節を構成する双方の骨の骨膜が結合して作られる、関節を包む潤滑油や栄養を含む水が入った袋のようなもの)と靱帯(柔軟性のない硬いヒモ)ではずれないように繋げられているが、実は筋肉が完全に脱力して伸びきってしまうと、関節の隙間が広がってしまい、関節がはずれかかる亜脱臼(不完全な脱臼)を起こしてしまうことがある。 

脳卒中などによる片麻痺の患者さんがときどき三角巾で腕を吊っているのは、腕の重さで肩関節が亜脱臼を起こすのを防ぐためのものなのだが……、見たことがある人はいないかな? 

だから、麻痺がある人の介護をする場合は、腕を強く引っ張ったりしないように注意しなければいけない。

(麻痺には手足がだらんとしてしまう弛緩性の麻痺と、手足がぎゅっと縮まってしまう緊張性の麻痺があり、亜脱臼を起こしやすいのは当然弛緩性麻痺の患者さんだ) 

ついでなので解説すると、肩関節を一度でも脱臼したことがある人は、靱帯や関節包が伸びてしまい脱臼しやすくなる。

これを防ぐにはどうしたら良いでしょう? 

そうです。肩関節周囲の筋トレをして、筋肉に靱帯の代わりをさせればいいんです。(古い話だが、相撲の千代の富士は肩関節の脱臼癖があって、それを防ぐために筋トレをしたお陰で筋肉隆々の強い横綱になった)

  

筋肉は神経の働きにより素晴らしく制御されている

私達の身体には、名前が付いているものだけでも300以上の筋肉があるが、その全てがきちんと協調し、スムーズに働くことで私達の生活は保たれている。 

これは本当に凄いことで、驚愕の事実である。(と私は思う) 

考えてみよう。筋肉が働くのは運動するときだけではない。 

座っている時でも、腹筋や背筋や足の筋肉や首の筋肉や要するに全身の筋肉が、踏ん張ったり、適度に力を抜いたりしている。 

だから、脳からの指令が個々の筋肉まで届かない脊髄損傷の患者さんは、安定した姿勢で椅子に座ることが出来ないし、神経と筋肉の連絡が確立していない赤ん坊は動きが危なっかしいのである。 

喋るときだって、肺から適度な空気を出し、声帯や舌や唇の形を言葉毎に変える上に、アクセントや声の大きさを調節し身振り手振り、表情の変化などを駆使する必要があるが、それは筋肉の働きである。 

脳損傷による失語症の患者さんには、言葉の意味が理解できなかったり、語彙を構成できない感覚性の失語と、話すことに関する筋肉がコントロール出来ない運動性の失語が別々に存在する。 

心臓は筋肉の塊だし、呼吸筋が麻痺すれば息が出来ない。 

要するに、筋肉のコントロールが出来ないと生きていけないわけで、だからこそ筋肉のコントロールには、とても多様で複雑な神経の支配が必要になる。 

脳と脊髄と末梢神経が、もの凄く精巧な仕組みを作り出し、なるべく安全に事故が起きないよう、筋肉に指示を出しているおかげで私たちは生活できるのだ。 

そんな仕組みの一つが脊髄反射というわけ。 

次は痛みに対する筋肉の反応について考えます。


  

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