心と身体は、皆さんが考えている以上に密接に関係しています。
「身体的変化を起こさない感情はありません」
これがこの記事のテーマ、ちょっと抽象的な概念ですよね。
私は日常の診療の中でいろんな話を患者さんとするのですが、医学的な話をわかりやすく表現するのはなかなか難しいことです。
50年も前にジョン・A・シンドラーという医師によって書かれた本「心と身体の法則 」には、私の言いたいことがとてもわかりやすく表現されている箇所がありました。
ここで簡単にご紹介したいと思います。
この医師は、その当時から、(もちろん病気にも依りますが)病院を訪れる患者の半数以上が心因性の症状であると述べています。
(以下は内容をわかりやすく纏めて引用します)
心因性のからだの病気を理解するためには、こころの動き、つまり感情というものを理解する必要があります。1884年、心理学者で哲学者でもあるウィリアム・ジェームズはこう定義しました。
感情とは「何らかの身体的活動を伴うこころの状態」
私たちは常に何らかの感情を持っていますが、ひとつひとつの感情に伴って筋肉や血液や内臓や内分泌腺に変化が起きています。
こうした身体的な変化と、こうした変化を伴う心理的状態を合わせて感情と呼ぶのです。
「身体的変化を起こさない感情はありません」とは、
どんな感情でも目に見える身体的変化を伴うということ。
だからこそ俳優が演技をすることも可能なのです。喜んでいるのか、不満を抱いているのか、何かを恐れているのか、俳優の演技から私たちは感情を読み取ることが出来ます。
怒りを例に取れば、顔が赤くなる、目が大きく見開かれる、唇が引きつって硬くなる、あごがこわばる、拳を握りしめる、腕が震える、声が震えるなど。どれも見ればすぐにその人が怒っていることがわかるでしょう。
感情が動けば体の中でも変化が起こる
一方、目には見えにくいのですが、身体の内部でも変化は起きています。しかもそれはいっそう顕著で重要なものばかりです。
怒りを感じると、とたんに血液は凝固しやすくなります。
この現象には生物学的な意味があり、怒って攻撃的になり、傷を負い出血することに備えているのです。
怒ると心拍数も急激に増加し、血圧も急上昇します。
怒りは脳出血や心臓発作の誘引にもなりえるのです。
恐怖心や不快感も同様に身体に急激な変化をもたらします。
例えば血を見て気絶したり、吐き気を催すのは、恐怖心が脳の血流量に影響を与えたり、不快感が胃の収縮を引き起こしたためです。
このような身体的変化を伴う感情には大きく分けて二つのグループがあり、
第一のグループ「怒り、不安、恐れ、心配、落胆、悲しみ、不満などの不快な感情」は身体の様々な部分に過剰な刺激を与え、神経系を通じて臓器や筋肉を普通以上に刺激し緊張させたり、内分泌腺を強く刺激しホルモンバランスを乱したり、免疫機能を低下させたりします。
第二のグループ「希望、喜び、勇気、落ち着き、心地よさなどの快い感情」は、身体の各部に最適な刺激を与え、私たちを快く感じさせます。
この本は世界13カ国で翻訳され、100万部を超えるベストセラーになったそうです。
これを読めば、日ごろ私たちが抱く感情が、いかに身体に直接的な影響を及ぼしているかが実感できます。
その刺激が、たった一度きりのことであれば、身体的な影響は小さく取るに足りないものかもしれません。しかし、良くない感情が繰り返し、場合によっては一日に何度も起き、身体に過剰な刺激を与え続ければ、身体は本来のバランスを崩し、調子の悪い箇所が出てくるのも当然のこと。
東洋医学でも感情と心の関連性を重視している。
東洋医学では感情の変化を七情と呼び、感情の種類によって対応する臓器や症状があり、お互いを調整しながら治療を行います。
近年特に注目されるようになったストレスと身体の関係ですが、実はずいぶん前からその重要性を知り、治療に応用していた人達がいて、私たち現代の治療家は、その智恵を受け継ぎ、患者さんたちと向き合っているわけです。
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